【ジロ2019】一番強かったのはカラパスと見せかけてランダ【中編】

主な総合系選手の順位推移表(第2週)

【前編】に続き、【中編】では第2週、stage10~stage15までの個人的偏見に基づく分析を感想を交えながら書いていきます。

遂に、山岳戦が本格化しエース同士のぶつかり合いが始まります。

一体、誰が一番強かったのでしょう。

ログリッチから見る第二週

ユンボの意向があってマリアローザは譲られましたが、依然として総合系選手の中ではログリッチが優勝候補です。

よって、今回もログリッチを基準に主な動きがあったステージのデータを、お手製のグラフでまた見ていきます。

主な総合系選手の順位推移表(第2週)
主な総合系選手の順位推移表(第2週)

順位は終盤に向けタイム差が広がっていくにつれ上位に収束していきますので、あまり意味のない情報なのですが、ランダを見て下さい。

山岳3連戦で総合30位→5位までジャンプアップしています。

カラパスも20位→1位と、この週からモビスターが存在感を一気に強めました。

主なステージ終了後のログリッチとのタイム差グラフ(第2週)
主なステージ終了後のログリッチとのタイム差グラフ(第2週)
主なステージ終了後のログリッチとのタイム差(第2週)
主なステージ終了後のログリッチとのタイム差(第2週)

stage12

このステージからいよいよ山岳戦が始まりました。

今大会最初の1級山岳が終盤に1つ設定されたステージです。

ここでいよいよクライマー系エースが動き出します。

ログリッチから既に4分以上差を付けられているロペスとランダが積極的に攻撃を仕掛け、共に28秒のタイムを得ます。

ステージのレイアウトとタイム差的に他の総合勢が追いかけることはありませんでしたが、「勝負はここからの山岳だ」という意気をロペスとランダが見せてくれました。

こういう「エースとしての自覚・熱さ」がこの二人の走りには特に表れていると思っていて、彼らの積極的なアタックやチャレンジは私の心を熱くしてくれます。

だからこそ、ランダには単独エースを任せてあげて欲しいのです。

stage13

ジロらしさが出てきます。今大会最初の1級山岳山頂フィニッシュです。

間違いなく、各チーム・各エースが動くステージです。

そして、その動きはステージ序盤から見られました。

アスタナ・モビスター・バーレーンが「前待ち作戦」のためにメンバーを大量に逃げに乗せました。加えて、ステージ優勝を狙う実力者達が逃げに加わり、実に28名もの大逃げ集団が形成されてしまいます。

これは前の記事で述べたことなのですが、今大会は集団コントロールがどうしても甘くなる傾向にあったので、逃げ集団が形成されやすく「前待ち作戦」が決まりやすい状態にありました。

以後のステージでも、特にアスタナ・モビスターはこの「前待ち作戦」を多用し、上手く秒差を稼ぐことに成功しています。

今ステージでは、前日に続きランダがアタックをし、「前待ち」していたアマドールとカレテロのアシストを受け、最もログリッチとの秒差を稼ぎ出しました。

その後ろでは、ログリッチと二バリが互いを牽制し動かず、その隙にカラパスとマイカが秒差を稼ぎます。

一方で不運なことに、ロペスはメカトラで勝負のチャンスを逃してしまいます。サイモンに至っては、その前に落ちていました。

こうして、このステージではタイムを大きく稼いだ選手、リードを守ることに徹した選手、タイムを失った選手という風にはっきりと分かれました。

そうです、実はこのステージがジロ2019における直接の勝敗を決したステージです。

二バリがこのステージでカラパスに対して失った秒数は

「1分19秒」

カラパスとの最終タイム差が1分5秒ですから、ここで二バリがカラパスとの秒差を留めていれば、二バリの総合優勝が十分あり得ました。

では、何が二バリをそうさせなかったのかという考察は後述します。

stage14

ジロの山岳ステージという感じのレイアウト。

カラパスがマリアローザを着ることになったステージです。

まさか、そのままカラパスが最後までマリアローザを着ていると思っている人は極僅かだったでしょう。

かく言う私も偉そうに後出しジャンケンでレースを分析していますが、当時カラパスがマリアローザを取るとは思っていませんでした。

「カラパスがマリアローザを着たことで、ランダが動きにくくなるやん!せっかくランダが追い上げてるのに!」と思いましたね。

とは言え、第2週のカラパスの調子がかなり良かったことは間違いないですし、実際の走りを見ていても強いことに疑いはありませんでした。

「カラパスってこんなに強かったっけ?」と私同様の感想を抱く人も多かったのでは?

昨年のジロでステージ優勝もして総合4位なのに、何故かそういうイメージなんですよね。元々過小評価されやすい感じというか、……出身国と年齢ですかね。

ただ!!

そんな強いカラパスでも、周りのライバル全員にマークされて波状攻撃をされたら、流石に堪えざるを得ないのです。

特に、ログリッチ。ひいてはユンボ。

ログリッチがここで大きく仕掛けていれば結果は変わったでしょう。

第2週ではタイム差を守る側でしたので、攻める走りをする必要がなく、チーム状況からもなるべく体力を温存しておきたかったのかもしれませんが、

【前編】のstage9で考察したように、ログリッチの第2週の調子はカラパス同様良かったはずです。何なら第3週に向けて上がっていてもおかしくない。

だからこそ、カラパスにマリアローザを譲るという考えが出てくるのであろうし、アシストと第3週のことを考え、守りに入ったのです。「逃げ切れる」と。

加えて、デュムラン不在の「牽制が起きやすい状態」も相まって、このステージでのカラパス独走勝利という結果をもたらしたと思います。

stage15

後半にはイル・ロンバルディアのコースが取り入れられたステージ。

コースレイアウトが山下りゴールになっていることもあって、下りの名手二バリが攻撃を仕掛けました。

これまでのステージでは中々決まらなかった攻撃がこのステージでは決まり、カラパスこそ引き離せなかったものの、他のライバルからの秒差を稼ぐことに成功。

特にログリッチはメカトラとチームカーの遅れによる合わないバイクによるダウンヒル、そして落車という不運が重なり、さらにタイム差を稼がれてしまいます。

これに関しては、確か実況者もユンボを責めていた覚えがありますが、どうなんでしょう。

確かにあのタイミングのトイレタイムはサポート役としてはマズかったのは間違いないですが、個人的にはマリアローザをモビスターに譲ってしまった時点で勝負は決していたと考えます。

ただ、チームカーが遅れなければ少なくとも「落車」は免れたであろうという点が悔やまれます。落車さえしなければ十分ログリッチにも勝機があったはずです。

本人も落車には気を付けてあまり下りは攻めなかったと言ってるので、ホント落車さえなければという所です。

不運としか言いようがないのですが、これがロードレースなんですね。

stage13とカラパスが勝利した理由

では何が、ジロ2019の勝敗を決したのか。

私が重要視するstage13のタイム差を生んだのか。

stage3のカラパスのメカトラ

これこそが実は勝敗を決したのではないかと、私は考えています。

stage3でカラパスがメカトラで失ったタイムは、

「46秒」

これが各選手・各チームのカラパスに対する過小評価・及びノーマークを生み出したと考えます。

何故、stage13でログリッチと二バリが牽制し合っていたのか。

何故、stage14でカラパスは牽制の目から抜け出すことが出来たのか。

そもそも、選手同士は何故牽制し合うのか。

それは、マークする相手が自分にとって脅威となりうるからという理由に他なりません。

ゴール前の牽制なんかも、互いに相手の足がどれだけ残っているか分からない=自身にとって脅威であるから発生します。

stage13の時点ではログリッチは二バリを、二バリはログリッチを互いに脅威だと思っていて、続くstage14でも依然として二バリにマークされているのはログリッチです。

第3週に入るまでカラパスは脅威だとみなされていませんでした。

カラパスが脅威だとみなされなかった理由は以下だと思います。

①そもそも、何故か過小評価されがち(おそらく、出身国と年齢)

②チームのエース(ランダ)を隠れ蓑に出来た

③stage3での絶妙なロスが、stage4での勝利と見かけのタイム差の印象を薄くした

カラパスは過小評価されがち?

前述したのですが、どうもカラパスという選手は開幕前から過小評価されていたと思います。

それはマリアローザを着用しても依然として実力を疑われていた気がします。

多くのロードレースファンがそうだったと思いますし、何ならチームや周りの選手達ですら過小評価していたのではないでしょうか。私もそうでした。

今回、改めてその成績を見直してみるとTTはクライマー系選手にしては早いかつ安定してましたし、調子が良いとグイグイと山を登っていくので、変な表現ですが「強いクライマー」の一人なんだと思い直しました。

やはり「強いクライマー」と言うと、コロンビア選手――キンタナ、ベルナル、ロペス、ウラン――などが思い浮かびます。

彼らは高地で生まれ育ち、天性の「クライマーの血」が体内を流れています。

一方で、カラパスの出身国エクアドルはロードレースがメジャーでないため目立って強い選手もいないのですが、カラパスが生まれた地の標高も2900メートルほどあるようで、実質これはコロンビアです。

間違いなく、出身国で過小評価されています。

というか横の国なのですから、アンデス山脈がエクアドルに入って急に無くなるなんてことはあり得ない。

この両国の差はロードレースがメジャーかどうかの差でしかなく、カラパスによって盛り上がれば今後エクアドル出身の強い選手も続々現れるでしょう。

単独エースという名のダブルエース

基本的にロードレースはエースを勝たせるチーム競技ですから、エースというのは一人で、それをサポートする強力なアシストを用意します。

まれにアシストの方がエースの実力を上回ってしまい序列に逆転が生じたりしますが、エースは強いからエースなのであって滅多にそんなことはないですし、例えその時アシストが強くてもやはりオーダーはそれなりに守ります。(その後批判もしますが)

ですので、基本的には1チーム1エースの単独エース体制です。

そしてジロ2019でモビスターは、バルベルデがジロを回避したため珍しくランダの単独エース体制を用意しました。

エースはランダで、カラパスはアシストとして働きます。

そのはずが、

蓋を開けてみると、「単独(ダブル)エース体制」という良く分からない状態になっていました。

これはG・トーマスが総合優勝したツール2018のフルームとの関係に似てます。

別にエースの状態が特別悪いわけでもないが、アシストが最後までエース同士の争いに付いてきてしまって、エースがマークされている間にアシストが秒差を稼いでしまい、その秒差のせいで実質的にアシストもエースになっているという状況です。

ジロ2019では、stage4でカラパスがダブルエースになる布石が打たれ、stage13でチーム方針としてダブルエース体制でもイケるという確信になり、stage14で単独(ダブル)エース体制が完成したという所でしょうか。

エースだとは誰も言わないが実質エースの立場を得たカラパスは、日を追うごとに山で存在感を見せるランダを上手く隠れ蓑にすることでタイムを稼ぎ、また守ることで他のライバルに圧力をかけることに成功しました。

近年のモビスターのダブル・トリプルエース体制は、イマイチ不発に終わることが多かったですが、ジロ2019は2枚の札が上手くハマった珍しいパターンでした。

しかし、それは皮肉にも、他ならぬエースのランダが「単独エースとしての自覚」を持ち、自身の勝負所で果敢に攻めて秒数とライバルのヘイトを稼いだからこそ効果的になったのです。

ダブルエース体制は、「ダブルエースだ」とチームも周りも、エース本人も思わない方が上手くいくのだろうと思いました。

stage3におけるカラパスのケガの功名

これが私の最も注目したいポイントです。

stage3でのカラパスのメカトラによるロスは、タイミングと秒差が絶妙でした。

1つは、まだレース序盤で「カラパスはランダのアシストだ」と思われていたタイミングだからです。

エースが終盤にメカトラで秒数を失えば、それは周りの選手も視聴者も印象に残り、秒数に変動があったと認識しますが、このタイミングのロスは「よくあること」で本人以外認識されなかったはずです。

もう1つは、このロスがカラパスがステージ優勝したstage4の前に発生していたことです。

もし、stage3とstage4が逆であったならば、46秒のロスをする前にステージ優勝していたことになり、ライバル達の落車によるロスも相まって、随分とステージ優勝後の印象が変わります。

実際のstage4でのタイム推移
実際のstage4でのタイム推移

これが実際のステージ終了後のログリッチとのタイム差です。

ログリッチがマリアローザを着用しているため、そのまま総合タイム差になります。

これがこうなります。

もしものstage4でのタイム推移
もしものstage4でのタイム推移

どうでしょうか。

もし、メカトラのタイミングがstage4を跨いでしまっていたならば、カラパスはステージ優勝と共にサイモンと並んで総合2位、しかもエースのランダとは落車のロスで1分以上の差を付けているという状態になります。

これはステージ優勝のインパクトと合わせて、カラパスに対するチーム内外の印象をガラリと変えてしまっていたと私は思います。

つまり、カラパスがランダと並んで総合争いの場にいた場合、勝負出来るカラパスを放置していてはいけないという認識になっていた可能性が非常に高い。

そうした場合、逆にランダが動きやすくなっていて、更にマージンを付けることが出来ていた可能性があります。

場合によってはカラパスとランダの立場は逆になっていたかもしれません。(ただ同時に、そうなっていたらモビスターのダブルエース体制の悪い部分が出てしまっていたと予想します。)

当然、メカトラによるロスが46秒より更に大幅(1分5秒以上)に大きければ、最後二バリに負けていたでしょうし、小さすぎるor発生しなければ(0~10秒以内)、マークの対象となっていたでしょう。

所詮「もしも」の話で、やはり結果が全てなのですが、何がどういうフラグになっているか分からないというのがロードレースの面白さでもあると思います。

そういうことで結論は【後編】に続きます。

では、さよなら。

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