【ジロ2019】一番強かったのはミケル・ランダだと思う【後編】

主な総合系選手の順位推移表(第3週)

【前編】では第1週、【中編】では第2週を見てきましたが、この記事では第3週、stage16~stage21の感想と分析、そしてジロ2019の総括を書きます。

ここまでで、「ジロ2019で一番強かったのはミケル・ランダ」説にはイマイチ説得力を持たせることが出来てないように思うので、最後、頑張ります。

カラパスから見る第3週

第2週が終わり、後はカラパスがいかにマリアローザを守るかという第3週。

またもやお手製のグラフを置いておきます。

主な総合系選手の順位推移表(第3週)
主な総合系選手の順位推移表(第3週)

実は、5位のバウケ・モレマの成績は意図的に載せてきませんでした。

というのも、あまり人数が増えても見にくいので。

個人的には総合4位までが注目したい選手でした。

そこに加えて、途中までカラパスと同じような推移を見せたマイカ、強いのにイマイチな結果のロペス、状態が上がらなかったサイモンを取り上げてきたつもりです。

主なステージ終了後のカラパスとのタイム差グラフ(第3週)
主なステージ終了後のカラパスとのタイム差グラフ(第3週)
主なステージ終了後のカラパスとのタイム差(第3週)
主なステージ終了後のカラパスとのタイム差(第3週)

stage16

今大会のクイーンステージ。

チーマコッピ(大会最高標高)のガビア峠に加え、それ以外にも「置いとくか」という感じで険しい山々が設定された、間違いなく最高難易度のステージです。

これが休息日明け1発目。

ただでさえ、休息日明けは調子を崩しやすいのに、ましてや疲労が溜まった第3週。「これは何かが起こるぞ」と思わざるを得ないステージでした。

しかし、当日は悪天候。

ガビア峠の積雪により、これを回避。代わりに1級山岳モルティローロ峠と3級山岳が追加されました。モルティローロも相当厳しい坂に見えましたが、本当はガビア峠が見たかったです。

勝負を動かしたのは逆転総合優勝を狙う二バリ。

雨が降る中、モルティローロ峠の勾配が上がるところでアタックし、カラパスは遅れてしまいます。

しかし、意図せずにダブルエース体制となったモビスター。カラパスの近くにはランダがいます。

単独エースであったはずのランダは、フルームを支えたSky時代に培ったアシスト技術で、本当に絶妙なペースメイクを始めます。これはチームの指示でしょう。

二バリに追いつくけれどもカラパスは遅れない、巧みなペースで二バリまで引き上げます。このランダの引きにはロペスが張り付きました。

一方で、ログリッチやサイモンはそのペースにも付いていけず、落ちていきます。

恐らく、stage15での落車の影響が幾分かあったような気がしますが、ここで初めてログリッチは意思に反して遅れました。

晴れていたならば、二バリはモンティローロの下りを攻めて30秒程度は稼いでいたでしょうが、雨のせいでリスキーなダウンヒルが出来ません。

上りで追いつかれた時点で後ろのログリッチを引き離すためにカラパスらと協調し、ゴールしました。

結局、総合勢の成績的にはログリッチとのタイム差が生まれただけという結果になりました。

stage17

相変わらずの山岳ステージ。

コースレイアウト的に山同士の間に距離があったので、勝負は最後の山頂ゴールだということは予想できました。

熱い漢、ランダが果敢にアタックします。

そして、その結果カラパスから12秒、二バリ・ログリッチから19秒タイムを稼ぎ、表彰台を狙えるタイム差まで迫りました。

3位のログリッチとの差は47秒差。1分を初めて切りました。

stage19

スプリントステージを挟んでの山岳ステージ。

これまたコースレイアウト的に山頂ゴールが設定された最後の山で動きがあるかどうかという所でしたが、もう残りのステージ的にも、モビスターは守りに徹するだけです。

タイム差が離れていたロペスのアタックには反応せず、ログリッチが途中に仕掛けた攻撃を抑え込み。

難なくマリアローザをキープしました。

stage20

泣いても笑っても大会最後の山岳ステージ。

まだ山岳があるのかよって感じです。しかも、ガビア峠がパスされたことにより、それに次ぐ標高のマンゲン峠がチーマコッピとなってそびえ立っています。

後半戦、エグ過ぎです。

誰もがもう限界ギリギリという走りをしていました。

ただ、最終日にはTTがあるので、TTが得意な総合系は最後ワンチャンス逆転を狙ってその圏内まで差を詰めたいことは確実です。逆に、クライマー系は安全圏まで秒差をキープしておく必要があります。

しかし、このステージで攻撃を積極的に行ったのはアスタナとモビスター、ロペスとランダというクライマー達でした。

アシストの枚数的にも二バリとログリッチはもう防戦一方です。

アシストの差があるとはいえ、やはり、ここまで厳しい山岳ステージが続くと負担的にクライマー系が有利なのか?

直近数年でグランツールでの山岳は厳しくなっている傾向にあるので、もしかしたらオーソドックスなクライマー系総合選手がまた日の目を浴びるかもしれない。

まずはマンゲン峠頂上付近でアスタナがペースアップ&ロペスのアタック。

これにはカラパスとランダ、モビスターのクライマーコンビしか反応できません。
一旦、マンゲン峠の下りで集団は逃げ集団を捉え、沈静化します。

続く2級山岳では、モビスターが牽引。ロペスが何回か抜け出そうとペースアップを繰り返しますが、逆にランダが隙をついてアタック。

02:19~:最後の最後でこの走り

頂上を越え短い下りの後、最後の1級山岳への上り返しがあるレイアウトで、このタイミングのアタックは少々チャレンジ性が高いもののように思われましたが、そのチャレンジ精神こそがランダの走りの魅力であって、シビれました。

しかし、下り区間で二バリに追いつかれてしまいます。

「ダウンヒルが上手いと、この程度のマージンなら容易にリセットされてしまうのか……」と悔しくなりました。

もしstage16で天候が良く、ガビア峠の下りになっていたならば、二バリはカラパスに下りで相当な秒差を取っていたことは間違いありません。

最後の1級山岳に入ってからは、ランダがペーシング。後ろではロペスが仕掛けたそうに上っていたのですが観客にぶつかって落車。勝負のチャンスを失います。

一方、肝心の二バリとログリッチはもう大きく仕掛けることが出来ません。ログリッチは遅れ始めます。そして途中からは防衛を確信したカラパス自らランダのために前を引き、ランダの表彰台とステージ優勝をお膳立てします。

このチームメイトのためにマリアローザ自ら前を引く姿は確かに感動的なものではあったのですが、同時に「それはキミの本来の仕事だったんだぞ~(泣)」と複雑な気持ちになりました。

結局、最後はスプリントの末、ランダはビルバオに負けてしまいます。惜しかった。

しかし、ログリッチを逆転し、その差23秒で総合3位に立ったことで表彰台への可能性を残しました。

stage21(TT)

最後のTTは実力に順当な感じに終わりました。

カラパスに対して、二バリは49秒を奪取。ランダに対して、ログリッチは31秒を奪取。

結果、二バリはカラパスを逆転することが出来ず、一方でログリッチは8秒差で表彰台に返り咲きました。

ただ、stage1の8kmに対して、stage21は17kmと倍以上の距離が設定されていることを考えると、ランダに対してstage1よりタイムを奪えなかったログリッチは、第3週で疲労困憊していたようです。

死闘を繰り広げた総合勢がトップタイムを争うことはなく、チャド・ハガが勝利しました。

不運な男、ミゲルアンヘル・ロペス

【中編】では、もしかしたらメカトラによるロスが、カラパスへのマークを弱め、むしろプラスに働いたのではないかと考察しましたが、その逆に、ロペスはかなり不運なトラブル続きだったと思います。

トラブルによるタイムロス・リカバーロス自体は勿論、重要な勝負のタイミングをことごとく潰されていました。

以下にアクシデント関連のロスをまとめました。

当時の記憶も定かでなく、細かいアクシデントが抜けているかもしれませんが、取り上げたい主なアクシデントは記入しました。

また、表にいませんが落車が無ければデュムランはDNFしていないはずです。

ジロ2019でのアクシデントによるロスとその影響
ジロ2019でのアクシデントによるロスとその影響

灰色で塗ってある部分は、特に重大で不運なロスです。

ログリッチは、チームカーが遅れたことで落車してしまい、そこで40秒失った上に第3週は調子を明らかに落としています。インタビューでも痛みを少し第3週に引きずってしまったようでした。

チームカーが遅れなければ、落車によるタイム・コンディションロスが無かった可能性が高いので、第3週の山岳でもう少し戦えていたでしょう。せめて落車は避けたかった。

ちなみに、stage4でランダが落車によるロスをあまり受けなかったならば(44秒→18秒)、表彰台をランダに譲っていました。この点では運がいいです。

しかし、それ以上に不運だったのは「スーパーマン」ロペス。

秒数や理由はモチロン可哀想なのですが、それ以上に、積極的な攻撃でチャンスを作る彼の走りが、その本領を発揮するタイミングでことごとく潰されてしまったのは本人の中で消化不良でしょう。

時間的にも、見かけのタイム以上に相当なタイムをロスしているはずです。アタックで奪う予定だったタイムがロスしてるのですから。

アクシデントがなかったとして、カラパスからどの程度タイムを奪うことが出来ていたかは定かでないですが、少なくともマイカ以上の順位になっていたのは間違いない。

stage9のTTの調子が悪く、第2週に入ってから、似たような成績のサイモンはそのまま落ちていったことを踏まえると、ロペスは絶好調ではなかったと考えます。

それでも、第2週以降の山岳では積極的に攻撃を仕掛けていたことを考えると、本当はもっと山岳を支配できる選手なのだろうと思います。

レース展開もロペスのアタックで動くことが多かったです。

流石は「スーパーマン」だと思わざるを得ないですが、運ばかりはコントロールできなかったようです。

ジロ2019で一番強かったのはランダだと思う

ジロ2019について、私はこのことを言いたかった。

この主張は突拍子のないものに思われるかもしれないが、そうでもないです。

ツール2019で確か、第3週の山岳に向けて「誰がツールで勝利すると思うか」というインタビュー映像において、(映像が見つかりませんが……)

BORAの誰かが「ランダだね。ランダがジロの山岳で一番強かった」というようなことを言っていました。

あの時、確かランダは4分程度のビハインドがあったはずなので、もしかしたらリップサービス的な意外なことを言おうとしたのかも知れませんが、私以外にそういうことを言った選手もいるということです。

さて、以下にカラパス・二バリ・ランダのログリッチに対するタイム差の詳細表・グラフを載せます。

ジロ2019総合TOP4の比較(ログリッチ基準)
ジロ2019総合TOP4の比較(ログリッチ基準)

ここにはアクシデントの秒差が書かれていませんが、この3人の比較ではあまりその影響はありません。

二バリとランダから見るジロ2019

二バリはTTが得意な(苦手ではない)総合系ということで、ログリッチと脚質が似ています。

よってログリッチと比較した際、TTでのロスを最小の1分25秒に食い止めている代わりに、ログリッチがstage15で落車し、第3週で調子を落とすまでは山岳で稼ぎ出したタイム差はほとんどありません。

これには二バリとログリッチが互いをマークし合っていたのもあると思います。

一方で、クライマーであるランダとログリッチを比較した際、ランダはログリッチに対してTTだけで4分41秒を失っています。

しかし、第2週からの山岳ステージが始まると、そこからはタイムを失うことなしにログリッチとのタイム差、それすなわち二バリとのタイム差を詰めました。

ログリッチからの獲得秒数を見ると、二バリは3分9秒、ランダは5分15秒と、ランダの方が二バリより2分以上も山岳で秒差を稼いでいます。

しかし、TTで3分以上二バリに後れをとってしまっているため、結果的に順位が二バリより下になっています。

これを踏まえるとやはり、TTの回数が多いジロ2019ではTTに強い選手の方が有利だという前評判自体は誤っていなかったと思います。

相当厳しい山岳ステージが後半にまとめて設定されていて、日々ランダが攻撃を仕掛けたのにも関わらず二バリが大崩れしなかったのを考えると、ジロ2019も例外でなく、TT系総合選手に有利な傾向にあったのでしょう。

これでもまだ、山が足りないのか……。

カラパスとランダから考えるモビスター

カラパスとランダは同じくクライマーなので、勝負どころは基本的に同じで、いかにTTでタイムロスを少なくし、山岳でタイムを大きく稼ぐかという勝負になります。

すると、この二人の最終タイム差を分けた理由は2つです。

①TT能力の差

カラパスがランダに対して、1分程度TTで差を付けています。

カラパスがイメージよりTTが早いことに驚きました。

むしろ、ランダはここまで遅かったか?と思いましたが、クライマー選手が第1週より後半に向け調子が上がるようにするのは自然なことなので、こんなものだと考えます。

ちなみに、モビスターのTTに関する問題をウィギンスが指摘していましたね。

カラパスの服装に無駄があるだとか、ランダがダンシングを多用しているとか。

そういう点では、この二人はTTでかなりのディスアドバンテージを背負っていて、今大会、相当のマージンを失っていたと思います。

それでもこの順位というのは、よほど山で強かったんだなと思います。

②山岳でのタイム差

両者の純粋な登坂能力ということで比較すると、これはランダの方が高かったです。
間違いなく、ジロ2019の山岳で一番強かったのはランダでした。

カラパスがマリアローザを着用することになったstage14での獲得タイムを除くと、ランダの方がカラパスよりコンスタントに大きなタイム差を獲得しています。

ただ、stage14での獲得タイム差。

このタイム差こそがランダとカラパスの順位の差であり、二人の着る服の色を変えた差でした。

なぜ、牽制の目をすり抜けてカラパスが独走態勢を作れたのかは【中編】で分析しました。カラパスの状態が良いのは間違いありませんでしたが、純粋な登坂能力、それだけではこれほどのタイム差は生まれなかったでしょう。

ここでは、モビスターにおけるランダの立場が見て取れます。

もし、絶対的な単独エースの立場がランダに保証されていたならば、例えカラパスがダブルエースになる可能性があったとしても、カラパスを独走させてランダを後ろで走らせることはあり得ません。

「エースで勝負する」よりも「チームでマリアローザを獲る」、「調子の良いアシストで勝負する」、「ダブルエースで臨む」……これはランダ本人が望んだことなのかもしれませんが、インタビューではそう言いますが、果たして本心だったのでしょうか。

stage16で遅れかけたカラパスのために途中ペーシングしましたが、置いていくことも出来たのではないでしょうか。そしたら、表彰台もあったはずです。

はい。

基本的にモビスターというチームは、エースにそれほどの信頼感を置いていない。

ジロ2019では、それがたまたまハマるような混沌とした状況があったから良かったものの、これが初めからランダとカラパスの「ダブルエース体制」だったならば、中途半端な結果で終わっていたことは間違いないです。

モビスターの2020年シーズンでは、カラパスが抜け、ランダが抜け、キンタナが抜け、バルベルデは21年までを予定していて……

ただでさえエースクラスの選手がほとんど抜けるのに、今まで通りでいいのか。

例えば、マスとソレルがいたら、「ダブルエース体制」なのか。

それでは、ソレルが首を振って出て行ってしまいそうです。

モビスターはそういう部分の選手マネジメントをもう一度考えた方がいい。

エースの序列をハッキリと決めておくことは、悪いことばかりではない。

ランダがそういう扱いにもめげずに、自身の闘志と足でジロの山岳とライバルに最後まで臨んでいったという意味でも、一番エースとして強かったのではないかと思います。

以上、これまで全てを踏まえて、

ジロ2019において、同じモビスターというチームに、ミケル・ランダという一番強いエースがいたからこそカラパスは総合優勝できた

そのように結論付けます。

ジロ2019、是非そういう視点でも見てみて下さい。

では、さよなら。

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